アヌビスはどんな神?
アヌビスは、古代エジプトで死者を守り、来世への旅を助けた神です。ジャッカルの頭を持つ姿で知られ、葬送ではミイラ作りを見守り、死後の審判では心臓を量る天秤を確かめます。恐ろしい死の神というより、埋葬から審判まで死者を支える守り手として信仰されました。[1][3][5]
- 死者を包み、身体を守る遺体を布で包むミイラ作りに結びつき、埋葬まで死者を傷みや危険から守ります。
- 心臓を量る天秤を見守る死後の審判では天秤を確かめます。結果を書くトトや、裁きを主宰するオシリスとは役割が違います。
- なぜジャッカルの姿?墓地の近くで見られた動物が姿の理由になったという説があります。確かなのは、死者を守る神として古くから表されたことです。
基本情報
- 分類
- 古代エジプト神話 / 神
- 代表的な姿
- ジャッカル、ジャッカル頭の人身像
- 地域
- 北アフリカ・古代エジプト
目次
アヌビスは死者をどう支えた?
心臓の審判、葬送、ジャッカルの姿から、死者を守る役割をたどります。
死後の審判で、アヌビスは何をした?
古代エジプトでは、死者が来世で生き続けるには、生前の行いが正しい秩序にかなっていたかを確かめる審判があると考えられました。そこで量られるのは、財産や力ではなく死者の心臓です。心臓を、正しい秩序を表す女神マアトの象徴と天秤にかけ、その人がどう生きたかを確かめます。[2][7]
心臓は、知恵や感情の宿る大切な場所と考えられていました。そのため、心臓が持ち主に不利な証言をしないよう、呪文を刻んだ「心臓スカラベ」という護符をミイラの胸に添えることもありました。[2]
アヌビス自身が判決を下すわけではありません。天秤を確かめるのがアヌビス、結果を記録するのが知恵と文字の神トト、審判を主宰するのが冥界の神オシリスです。下の図は、三柱の役割と天秤で比べるものを整理しています。[1]
ナウニは審判の先で何を取り戻した?
この審判がどのような物語として描かれたのかは、紀元前1050年ごろのナウニのパピルスを見ると分かります。ナウニはアムン神殿で歌い手を務めた女性で、その葬送用の巻物は長さ約5.2メートルあります。中央の審判図では、彼女が目と口を手に持って立っています。[1]
天秤が釣り合うと、アヌビスはナウニの心臓が正しく証言したと告げます。続いてオシリスは、彼女に目と口を返すよう命じます。審判図は合否だけで終わらず、ナウニが来世で再び見ること、語ることを取り戻す場面まで描いています。[1]
パピルスの上段には、ホルス像をたたえ、自分の墓のそばに立つナウニも描かれています。審判の先に、再び活動する来世が続くと考えられていたことが伝わります。[1]
死者の身体を守り、埋葬へ送り出した
死者が審判へ向かうには、まず身体を整え、無事に埋葬しなければなりません。アヌビスは神々の中でミイラ作りを担う存在とされ、死者の身体を保存する役割を持ちました。棺や護符にその姿が描かれたのも、埋葬のあとまで守ってほしいという願いがあったためです。[3]
実際の葬送儀礼では、神官がアヌビスの仮面を着け、神の役を務めることもありました。アヌビスは遠くから死者を見守るだけでなく、ミイラを作り、埋葬へ送り出す儀礼の中に姿を現したのです。[3]
ネジェムアンクの棺に残る、葬送の場面
紀元前1世紀ごろの神官ネジェムアンクの棺には、ライオン頭の寝台に横たわる遺体へアヌビスが儀礼を行う場面があります。そばで守るのは、オシリスと深く結びつく女神イシスとネフティスです。[4]
同じ棺には、遺体をナトロンという塩で乾かし、香油を塗って亜麻布で包む支度も描かれています。これは一つの棺に残る具体例ですが、身体を整える作業と神々の保護が切り離されていなかったことを伝えます。[4]
なぜジャッカルの姿で表されるの?
アヌビスは、ジャッカルの頭を持つ人の姿や、ジャッカルそのものの姿で表されます。古代エジプトのジャッカルの神々は、死者を守り、来世へ導く存在でした。[5]
墓地にいた動物だから、だけでは言い切れない
ジャッカルが墓地の近くで見られたことから、死者を守る神の姿になったという説があります。ただし、信仰の始まりを一つの理由だけで説明することはできません。[5]
分かっているのは、ジャッカルの神々が王朝の始まる前の先王朝時代(紀元前5200〜3100年ごろ)から信仰され、紀元前3100年ごろの文書にも現れることです。アヌビスの姿には、非常に古い時代から続く「死者を守り、旅立ちを助けるもの」という役割が重なっています。[5]
さらに詳しく知る
出自の異説と、時代による審判図の違いを紹介します。
アヌビスの出自と、オシリスたちとの関係
アヌビスの親については、伝承ごとに異なる名前が語られます。牝牛の女神ヘザトの子とする話がある一方、冥界を治めるオシリスと女神イシスの子、またはオシリスと女神ネフティスの子とする話もあります。[6]
そのため、アヌビスを一つの家系図に当てはめることはできません。伝承によっては、イシスとオシリスの子ホルスと兄弟になる場合もあります。大切なのは、どれか一つを唯一の正解にするのではなく、時代や地域によって神々の関係が組み替えられたと知ることです。[6]
後の時代には、セラピスの子とも語られた
後の時代には、アヌビスをイシスとセラピスの子とする伝承も現れました。セラピスは、エジプトのオシリスとギリシャの神々の特徴が結びついて広まった神です。アヌビスの家族関係の変化からは、古い神が新しい社会の中でも語り直されていったことが分かります。[6]
時代によって変わる審判の描かれ方
心臓を量り、アヌビスが天秤を確かめるという中心の役割は共通していても、審判の図はいつも同じではありません。紀元前1050年ごろのナウニの図では、羽根を付けた小さなマアトが天秤に描かれ、審判の先でナウニが目と口を取り戻します。[1]
それより後の紀元前230〜150年ごろの別のパピルス断片では、42人の裁判官が並び、心臓はしゃがんだ姿のマアトと比べられています。釣り合わなかった心臓を食べる怪物アメミトも登場します。どちらも死後の審判を描いていますが、同じ一場面ではありません。図を見るときは、誰のために、いつ作られた資料なのかを分けて考える必要があります。[7]
アヌビスが登場する作品
作品ごとの登場人物や設定を紹介します。
出典・参考資料
本文の注番号から、根拠にした資料を確認できます。
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1
Book of the Dead for the Chantress of Amun, Nauny ↗ The Metropolitan Museum of Art · 博物館・大学資料
紀元前1050年ごろのパピルス。審判図の役割と、ナウニの審判後の描写。
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3
Anubis: Embalmer and Protector of the Dead ↗ University of Michigan, Kelsey Museum · 博物館・大学資料
ミイラ作り、神官の仮面、棺や護符による死者の保護。
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4
Nedjemankh Becomes a Mummy ↗ The Metropolitan Museum of Art · 博物館・大学資料
ネジェムアンクの棺の葬送場面と、埋葬までの危険という説明。
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5
Death Dogs: The Jackal Gods of Ancient Egypt ↗ University of Michigan, Kelsey Museum · 博物館・大学資料
ジャッカル神の姿・葬送との関係・由来の仮説。
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7
Part of a funerary papyrus showing the judgment before Osiris ↗ The Metropolitan Museum of Art · 博物館・大学資料
紀元前230〜150年ごろの審判図、42人の裁判官、アメミト。
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